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第29回リバネス研究費 三井化学賞 採択者インタビュー「化学と計量経済学により、フードロス削減を目指す」

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写真(左)山浦氏、(右)昇氏

2015年9月に「豊かな食を創造する研究」を募集した第29回リバネス研究費三井化学賞に、 東京農工大学 農学研究院 国際環境農学部門の山浦紘一助教が採択された。 同氏の応募テーマは「食品安全性などの曖昧な情報と消費者便益影響研究」。 学問分野としては農業経済学とミクロ計量経済学に分類されるものだ。 総合化学メーカーである三井化学株式会社がなぜこのテーマを採択したのか、 両者のコラボレーションによりどのような未来が見えてくるのか。 同社のフード&パッケージング室 グループリーダーの昇忠仁氏と山浦氏にお話を伺った。

豊かな食の実現を目指して

昇氏 2014年度に策定された中期経営計画の中でフード&パッケージングを注力すべき分野のひとつとして捉え、2015年4月にフード&パッケージング室が設立されました。その目的は食とパッケージングに関わる事業活動を通じて社会課題解決に貢献することです。具体的には、当社の技術・事業基盤をベースにして、社会課題であるフードロス・廃棄を削減することです。この課題解決にあたるには、生産・加工・物流・小売・消費という食品のサプライチェーン全体の流れを考える必要があります。具体的にどこを狙っていくのか、どのような打ち手を取るのかを議論する中で、我々のリソースのみでは実現困難な分野もあり、それに対しては、中長期的な機能・技術獲得戦略に基づき、外部の知恵を得ようとリバネス研究費の公募を行いました。

山浦氏 募集を見て、最初は三井化学という社名から、自分の研究分野とはだいぶ離れているという印象でした。しかしメッセージに書かれていた「より廃棄を少なく」という言葉を見て、目指す方向は同じだと感じて申請をしました。私はカンザス州立大学で博士号を取得したのですが、在学中より、フードロスをなくして豊かな食生活を実現することが豊かな家庭や地域を作り、ひいては豊かな国を作ると考えていました。日本ではまだ多くは試されていない分野ではありますが、計量経済学を活用して農・林・水産業従事者ら生産者と消費者の考えや行動を定量的に評価し、その関係性を明らかにすることが政府や地方自治体の政策につながり、「豊かな食を作る」と考えたのです。国連食糧農業機関とアフリカの食料供給に関する共同研究を行う中で、消費者が持つ食の安全に対する考えを理解しないと解決できない課題があると感じていたことがあり、今回の研究テーマを申請しました。

材料メーカーが提供できる情報とは何か

山浦氏 消費者の行動は、情報によって大きく影響を受けます。節分のような季節性のイベントや、食品の種類や産地に関連するイメージもその一因ですね。また、消費期限の情報も重要です。食料品店では万が一のリスクを考えて消費期限が過ぎた食べ物は廃棄していますが、実際には期限を過ぎたらすぐに腐るわけではありません。消費者自身が見た目や臭いで判断できれば良いのですが、常に充分な消費期限のある「安心・安全な食料品」を得られるため、消費者自身で判断する機会が減り、その結果、表記に頼りきってしまいます。

 では廃棄を減らすには生産量を調整すればいいのか、消費期限表記を変えるのがいいのか。また、食品の安全性に関する情報をどこから受け取ったかによって、消費者の行動がどのように変化するのか。その結果として市場の流通量や価格がどのように反応し、巡り巡って消費者自身にどのような影響があるのか。こうした問いに対して経済学的に解決策を提示したいと考えています。

昇氏 もともと三井化学は名前の通り総合化学メーカーで、食品パッケージングについては素材や材料の提供を事業としています。当社がフードロス・廃棄の削減に対して主体的に関わろうとすると、より消費者のことを知らなければいけないと考えました。サプライチェーンの中の各シーンで起こる様々な行動を科学的に理解した上で、ロスを無くすために素材の機能をデザインしていくということを、化学メーカーだからこそできると考えています。例えば青果物のパッケージを考えると、水蒸気の透過性が高い包装材が良いのか、エチレンを吸着するものが良いのか、または遮熱性の高いものが良いのかなどは、包装材に包まれる内容物だけでなく、例えばスーパーの中で入り口近くの温度変化が多い場所に陳列されるのか、冷蔵スペースに陳列されるのかといった等の複合的な要素も大きく影響します。このようなサプライチェーン全体の中で、内容物の鮮度・品質・安全性をいかに担保するか、そのためにパッケージ材料はどうあるべきかを科学的に解明・制御し、きちんと説明付けていくことが、消費者に対するインパクトにも繋がると考えています。

消費者を深く知り、機能をデザインする

山浦氏 一口に消費者と言っても、ひとりひとりが異なる考えを持っています。私の研究ではそれを地域や年齢、性別等によってどのような傾向の違いがあるのかについても明らかにしていきたいと考えています。その結果が大多数を対象とした戦略やニッチ戦略などを立てる材料になればと思います。消費者行動に影響を与える要因を分析し、その行動を制御する素材を開発、提案していければ、長い目で見た競争力強化に繋がるのではないでしょうか。

昇氏 一般にはそれほど知られていませんが、近年食品パッケージは着実に進化しています。技術の進歩によって内容物の品質を保全し、消費期限を延長することができるようになってきているのです。これまでの私達のアプローチは、消費者の間接的なニーズ情報に基づき内容物にとってより良い機能を持つパッケージの素材や材料を提供することでした。今後は、消費者に直結したニーズを科学的に解明・制御し、より良い機能を付加していくことで消費者に便益性を実感して頂き、その結果として食品の廃棄を減らし、社会全体にとっての豊かな食を実現していきたいですね。そのために、原料であるモノマーから機能を設計できる私達の強みと消費者行動やニーズを科学的に分析・解析できる山浦先生の強みとの融合が極めて重要だと考えています。(文・西山哲史)

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