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カーボンナノチューブの未来を切り開いた孤立分散技術

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1991年、NEC中央研究所の飯島澄男博士によって構造が明らかにされたカーボンナノチューブ(CNT)は、そのカイラリティや層構造の違いにより強靭さ、軽さ、柔軟性、導電性、半導体特性など多くの優れた特性を示す素材として脚光を浴びた。近年、再び熱く注目されている理由のひとつは、実用化、産業利用を阻む課題に対する技術革新だ。ナノサミット株式会社CTO古月文志氏(東京大学特任教授を兼任)は、大量かつ安価なCNT孤立分散技術の開発に成功した。

扱い難いCNTの凝集特性

 CNTは未だ普及していない。大量生産の技術、カイラリティ等構造の異なるCNTの作り分けの技術、それらの精製技術など、様々に解決すべき課題があるからだ。とりわけ重大な課題は、CNT同士の分子間力相互作用による凝集である。CNT自体の性能がどんなに優れていても、凝集した状態では十分に活かすことはできない。界面活性剤や超音波を駆使して1本1本を分散させても、その孤立した分散状態を維持することが困難であり、安価で大量に安定的に扱える分散技術が求められていた。

静電的な引力を利用した自発的分散

 古月氏が開発した技術は、1分子中にプラスとマイナスの両方の電荷を持つ両性イオン分子を分散剤として用いる。そのメカニズムには、分散剤がCNT凝集体の表面で両性イオン分子膜 (self-assembled zwitterionic monolayer:SAZM)を自己組織化的に形成する性質を利用している。CNT凝集体を覆うSAZMは、双極子間の強い静電的相互作用によって、他のCNT凝集体のSAZMと静電的に結合する。これにより凝集体が互いに引っ張りあって、CNTを引きはがす。そして小さくなった凝集体の新たな表面がSAZMによって覆われ、CNT全てが孤立するまで自発的に分散し続ける。結合の強度がCNT-CNT間<SAZM-SAZM間<CNTSAZM間という関係になっていることで、このような自発的分散を起こすことができるのだ。

図1)SAZMを用いたCNT分散原理の模式図
図1)SAZMを用いたCNT分散原理の模式図

孤立分散したCNTが拓く未来

 CNTの特徴である、軽さ、強さに着目しただけでもあらゆる製品部材にとって代わる可能性を秘めている。有名な「夢」はその強度を活用した軌道エレベータのためのテザーだ。また、導電性や高い比表面積に着目した電極や触媒への適用は、二次電池や燃料電池の性能を格段に高めるに違いない。電線やモーターにおいても、大幅な軽量化、小型化が実現できるだろう。他にも、ダイオキシン類などベンゼン環骨格をもつ有害物質を選択的に吸着する性質に着目したフィルターなども考えられている。孤立分散したCNTの量産体制が整い、その生産コストが下がっていけば、従来用いられている金属材料やエンジニアリングプラスチックといった素材同様に、様々な場所で活用されるようになるはずだ。発見から25年、夢の素材と言われたCNTが世に広がる未来が、いよいよ見えてきている。(文・岡崎敬)

※例えば3-(N,N-ジメチルステアリルアンモニオ)プロパンスルホネートや2-メタクロイルオキシホスホリルコリン(MPC)とn-ブチメタクリレート(BMA)のコポリマーで孤立分散を確認している。

図2)分散処理した後の単層カーボンナノチューブの原子間力顕微鏡写真(左)と    透過型電子顕微鏡写真(右、バー:10nm)
図2)分散処理した後の単層カーボンナノチューブの原子間力顕微鏡写真(左)と
   透過型電子顕微鏡写真(右、バー:10nm)
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